優良中小型50社に学ぶ資本政策(1)
〈成長戦略を活かす後方支援のあり方〉
ユニークな事業モデルで成長を続ける中堅上場企業の資本政策にはどんな特色があるのだろうか。そこには成熟した大企業とは異なる価値観があるかもしれない。今回以降、10回に分けて優れた中堅上場会社の事例からのレッスンを報告したい。
企業価値を増加させる事業戦略を後方支援するのが企業財務の役割だとすれば、それは、①限られた経営資源(キャッシュフロー等)の配分を中長期的視野から判断し、②必要な資金を滞りなく調達できるよう資本構成や信用力を整え、③ステークホルダーの要求を踏まえた経営(財務)目標を設けてモニタリングする枠組みといえる。論者により、場面により、「資本政策」の意味するところは異なるが、ここでは上記①~③を資本政策として話を進める。言うまでもないが、配当政策だけが資本政策ではない。
JPX日経中小型株指数の構成銘柄で、指数ウェイトの大きい上位50社(22年4月時点)について、開示資料(有価証券報告書、統合報告書、中期経営計画、決算短信、コーポレートガバナンス報告書等)から各社の資本政策を抽出し、事業戦略との関係にも注意しつつ、特色を整理した。この対象会社群は、(a)ROE等でスクリーニングされ、資本効率に優れた銘柄で構成されていること、(b)ユニークな経営でニッチ市場に地歩を築いた会社や新産業の担い手を多く含んでいること、(C)機関投資家の株式保有状況やアナリスト・カバレッジから判断して、日常的な投資家との対話が予想されることから、中堅上場会社の資本政策を考える上で示唆に富むベンチマークになると考えた。
本題に入る前に、簡単に50社のプロフィールを確認しておきたい。
時価総額は概ね600億円から1,500億円の間であり、中小型といっても規模は大きめだ。47社が東証プライム市場、3社がスタンダード市場に株式を上場している。20年度のROEは平均14.4%で、5%を下回った会社は3社しかない(ROE等で銘柄を選抜したのだから当然)。
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた時期ではあったが、20年度までの5年間の売上高の年平均成長率は50社平均で5.9%(10%以上が14社、0%以上10%未満が28社、マイナスが8社)となった。同期間の東証一部全業種(金融除く)では0.39%なので、この企業群はかなり健闘していることになる。