優良中小型50社に学ぶ資本政策(3)

〈配当性向の目標値を設けない自由〉

収益性の高い投資機会が多く残っているなら、株主還元の自由度を留保しておく方が株主の利益にも適う。この50社のうち2/3が株主還元の目標数値を開示したことよりも、1/3が開示していないことに注目している。

株主還元についての目標としては、配当性向が23社と半数弱を占め、総還元性向は8社、DOEは3社(ただし、配当性向や総還元性向と合わせ、下限の目安としてDOEを用いている事例がある)となった。特定の指標を選ばず、計数面のコミットメントをしていない残りの16社は、「業績、事業計画、財政状態を総合的に勘案して配当を決める」、「安定した配当を維持する」、「一定額は固定配当とし、業績に応じて追加する」など、自らの事業や財務の特性に応じて裁量の余地を残した内容となっている。

なお、配当性向の目標が30%から40%の会社は上記23社中18社となっており、この範囲に集中していた。「一般的な観点から日本企業に対して中長期的に望ましいと考える配当性向の水準」について問われ、「30%以上40%未満」とした機関投資家が最も多かったとの報告がある(生命保険協会「企業価値向上に向けた取り組みに関するアンケート集計結果一覧(2021年度版)」)。個々の企業にとっては、投資家の日本企業全般への期待値や、上場企業の平均像には意味がなく、自らテーラーメイドの株主還元策をデザインする姿勢が求められる。

トリケミカル(4369)は、次世代半導体に向けた新材料ニーズ・高性能化の需要が継続するとみて、グループにおける生産・開発能力向上を積極化する。23.1期を初年度とする中計では、3年間で売上高を約43%増加させるとともに、経営の効率化を推進し、営業利益率は25%程度を維持する方針。

利益配分に関しては、事業の積極展開・体質強化のための内部留保を充実させると同時に、株主への安定した配当を維持するとしている(目標値はない)。過去5年間の配当性向は平均で21.6%と比較的低く、22.1期には49億円の公募増資も実施しており、高成長を支える資本基盤の強化を最優先する姿勢が伺える。

ツガミ(6101)は21年度までの過去5期間において、配当総額(66億円)を大きく上回る自己株式取得(146億円)を実施してきた。総還元性向は年によって大きく変動している(47%~188%)。工作機械業界は景気の影響を受けやすく、短期間で業績が大きく変化する可能性があるため、配当は少しずつ安定成長させ、自己株式取得で機動的に還元を行う方法を採用したものと考えられる。同社は株主還元方針も含め、経営目標となる数値を開示していない。

時代の変化に対応した開発投資を積極的に行い、競争力の一層の強化、経営の効率化に取り組むことにより、グループの総合力を高め、株主に利益還元を図ることが基本と同社は考えており、企業体質の強化を図るとともに安定配当を確保すべく努力する、としている。自己株式取得については、その必要性、財務状況、株価動向等を総合的に判断して適切に対応する方針。