優良中小型50社に学ぶ資本政策(5)
〈事業ポートフォリオ見直しに切り込む〉
先の50社のうち37社については、最大セグメントの売上構成比が70%を超えているか、単一セグメントとなっている。成長期の会社も多く、成熟したコングロマリット型の大企業に比べれば、事業ポートフォリオの見直しへの要請は強くないのかもしれない。
商社のように、多岐にわたる業種の顧客と取引関係にあり、自ら事業投資も行う業態では、多数の事業部門をポートフォリオとして管理するのが本社の役割となる。ROICによる部門管理は古くからある手法だが、適切に実施すれば、事業ポートフォリオの見直しを進める会社にとっては各事業の実力の「見える化」が進む。投下資本に対して収益性が低い事業のテコ入れや撤退がなかなか進まない組織にとっては、資本効率改善への最初の一歩となろう。
資金や人材など必要な経営資源をどう調達し、どんな基準で各事業に配分し、そこからどんな性質のキャッシュフローが生成され、それをステークホルダーにどう分配するか。さらに、各事業の成果をどう測定し、事業戦略にフィードバックするのか。これらの基礎的な情報は、社内の管理は勿論、事業戦略の実行可能性や優先度、リスクテイクの度合い、資本市場へのアクセスなどを外部から評価する上でも、有益な示唆を与えてくれる。
兼松(8020)はICTソリューションなど電子・デバイス事業を中心に、食料、鉄鋼・素材・プラント、車両・航空事業も手がける総合商社である。同社中期ビジョンでは、安定した財務構造を活かし、資本とリスクアセットのバランスを取りつつ事業投資を実行することが重点施策の一つに挙がっている。
同社は19年度より資金効率指標としてROICを本格的に導入し、経営管理に使用してきた。ROICのセグメント管理により、資本コストを意識した経営の進展を図り、連結全体でのROE改善を目指している。今後は各セグメント内でのスクラップ&ビルドを進める必要性を認識しているという。
同社の加重平均資本コストが会社公表値の3%台半ばとすると、20年度はROICがこれを割り込んだ事業があったが、21年度は全セグメントが上回った。
なお、同社は事業が過大なリスクを負わぬよう、すべての資産およびオフバランス取引を対象として最大損失可能性額(リスクアセット)を独自に計測し、自己資本(リスクバッファ)と対比させてリスクを管理している。
日鉄物産(9810)は鉄鋼、産機・インフラ、繊維、食糧の4つのコア事業を展開し、事業投資も行う専業商社である。
同社は23年度及び25年度に向けた中長期経営計画の策定に当たり、取り組むべき課題の一つとして低採算事業・組織の存在を挙げた。
選択と集中によるグループ構造最適化のため、ROICが低い事業や組織の課題を抽出し、製造・販売拠点の再編・統合・撤退や、業務プロセスの見直しとICTツール活用による付加価値生産性の向上などを実施している。加えて、優位性を発揮しうる成長分野に的確にフォーカスし、重点的に経営資源を投入・分配することで、全社の加重平均資本コスト4%を上回る6%のROICと、株主資本コスト8%を超える9%~10%のROEを回復する計画である。